女王様の図書室


2008年1月に読んだ本     

年始からとばし気味。
月に9冊っていう量も私としては多いし、
初めて読んだ角田光代が当たりだったこと
井坂幸太朗が相変わらず面白かったことで大満足。

 Sweet Blue Age     角田光代・他 6.0カラット
角田光代、有川浩、日向蓬、三羽省吾、坂木司、桜庭一樹、森登美彦の7人の作家による、短編集。恋愛小説じゃないし、えーっと何っていうんだ?と思ってアマゾンで何て書かれてるか見たら「青春小説」って書いてあった。なるほど。
あのころの、切なかったり、必死だったり、あきらめていたり、恋してたり、そんなキラキラしたかけらを、力のある作家達が描いている。
坂木司「ホテルジューシー」と森登美彦「夜は短し歩けよ乙女」が印象深いかな。
こういう、作家が色々集まってる短編集は、普段チェックしていない作家の作品をちょっと味見できるので、たまには良いかも。一冊読み終わっても「すごく良かった!」とまでは思えないんだけど、「あ、この作家、ちゃんと一冊読んでみようかな」と思ったりできるので、お試しサンプルjみたいな感じ?

 最後の恋       三浦しをん・他 6.0カラット
松尾由美、乃南アサ、角田光代、三浦しをん、谷村志穂、阿川佐和子、沢村凜、柴田よしきの8人の作家による短編集。こちらはラブストーリーかな。とはいえ、若干ミステリーっぽい部分もチラホラ見えるのはこの作家陣をみればわかること。犬好きには三浦しをん「春太の毎日」がおすすめ。あとは、阿川佐和子の小説って初めて読んだんだけど、独特の雰囲気があって面白い。国籍を感じさせない物語だった。一冊読んでみようかな。「わたしは鏡」の松尾由美も落ちがはっきりしてて面白い。この人は長編を前に2冊ほど読んでました。「スパイク」と「雨恋」どちらも良かったですが、犬好きには「スパイク」をお勧め。
これまた「sweet Blue Age」と同じだけど、知ってる作家の安心感と、初めての作家のお試し要素とあってお得な感じでした。

 図書館革命          有川浩 7.5カラット
感想を全然UPしなかった去年1年だけど、去年のベストワンはこの「図書館戦争」シリーズだと思う。そのシリーズの完結編。
前3作の感想は日記の方http://d.hatena.ne.jp/sumi0627/20070223なのでご参照下さい。
で、シリーズ完結してだけど、えーちょっと無理矢理終わりにした感がないか?そんな上手く解決できるならもっと早くやれよと思う反面、どこまでもだらだらシリーズ続けても仕方ないので、この辺で終わりにして○、とも思う。
思った通り、早速コミック化されたそうだけど、本当に初めて読んだときからキャラ設定から何から漫画チック。文章も会話もオタク丸出し。でも、このテーマは本当に重い。
このキャラクター、この文章で、このテーマを扱うことに、私はものすごく意味を感じる。ちなみに私の好みは、ヒロインの相手役の堂上篤じゃなくて、友達役の小牧幹久。
日記にも書いたけれど、図書館の自由に関する宣言をもう一度。
1,図書館は資料収集の自由を有する
2,図書館は資料提供の自由を有する
3,図書館は利用者の秘密を守る
4,図書館はすべての不当な検閲に反対する
図書館の自由が侵されるとき、我々は団結して、あくまで自由を守る

この完結編のように、作家が言論の自由を奪われる日が再び来ないことを、心から願う。
ちなみに、有川浩の他の作品は、実は好きじゃないのもアリ。

 赤に捧げる殺意 有栖川有栖・他 5.2カラット
有栖川有栖、折原一、太田忠司、赤川次郎、西沢保彦、霞流一、鯨統一郎、摩耶雄崇の8人のミステリー作家による、ミステリー短編集。上の2つの短編集はちょとtお得で良い感じっていったけど、これはイマイチって感じかも。中では、「命の恩人」赤川次郎が面白かったかな。かつては沢山読んでた赤川次郎、久々に読みました。子供の頃大好きだったけど、何となくもう私が読むものではないように思ってたのだ。でも今回こうやって他の作家と並べてみて、やっぱ上手いなぁって再認識。ちゃんと人物の心のひだとか書かれてるし、結構心にしみるじゃん。私の場合、トリックが面白くても、どんでん返しがすごくても、良い文章と、人間がちゃんと書かれてないと好きになれないので、改めて赤川次郎、再評価(偉そう)。

 八日目の蝉      角田光代 8.2カラット
今月のベスト1。ちゃんと読んだのは初めての角田光代。なんで今まで読んでなかったんだ?
簡単に言うと、不倫相手の子供をさらって逃げる話。そう聞いてしまうと、ものすごい酷い女が主人公なのかと思ってしまうけど、多分読んでそう思う人はいないんじゃないかな。
勿論、決して許される罪ではないのだけど、気がつくと彼女の気持ちに寄り添ってしまっているという、そんな描き方。
物語は、1章と2章に大きく別れているんだけど、2章への転換が「お!そう来たか」という感じ。突飛ではないけど予想外。
前半もいくつかに別れているのだけど、それも丁度良く出来ている。飽きさせず、書き足りなさも感じさせず、程よいサイズにきっちり納まってる感じ。
ミステリーというわけじゃないけれど、そういう要素もあってスリリングな気持ちにさせつつ、、登場人物の気持ちをすごく大切に描いている。
全体に、とても完成度の高い作品という印象。
読後感も○。決してハッピーエンドではないのに(あ、ネタバレか?)なんだか穏やかな気持ちになれる。
手放しで「良かった!」と言える作品だ。

 対岸の彼女      角田光代 7.7カラット
直木賞受賞作。
女子高生2人の友情に満ちた日々と、そのうちの1人の現在とを時間を交錯しながら描いていく物語。
過去の方の物語では、いじめられていた葵の憂鬱さやナナコの自由気ままな一匹狼的強さや、そしてその裏に抱えていたモノや、2人の強く熱く、そして悲しい友情が大切に描かれている。そう、角田光代という人は、本当に大切に一瞬一瞬を描く人だなぁと思う。あの頃の、キラキラして美しくそして醜い日々をこんなに大切に描ける人がいるだろうか。
そして、葵は現在では女社長として会社を起している。現在の場面では、新しく入社してきた同年代の主婦小夜子の目線から、葵とその周りの人々、小夜子との交流が語られる。
結局私たちは、あのころも今も、同じように美しく、そして醜いのだと気づかされ、そんな私たちを愛おしいと思わせる作品だ。

 ベーコン        井上 荒野 6.5カラット
新聞の書評を見て、面白そうだと手に取った一冊。
初めて読んだ作家だ。後で調べたら井上光晴の娘だった。
9つの食べ物と愛についての短編集。確か書評には「エロスが云々」ってあった気がするけど別にたいしてエロくない。しみじみと良い愛が描かれていると思う。
そして食べ物がちゃんと丁寧に美味しそうに描かれていて、好感が持てる。

 キッドナップ・ツアー  角田光代 7.2カラット
なんと今月3冊目の角田光代。
母と離婚した元父に夏休みに誘拐される、小学校5年生のハル。
仕事もなくダメダメな元父との数週間の旅を描いている。時にやさしい、時に冷静な、時に突き放した目線で。
ちょっぴりさめた小学5年生のハルも、いつの間にか元父のペースで旅を楽しんでいる。
元父は母との何かの取引をするためにハルを連れ出したらしい。その内容がいつまでもわからない。
ラストも「ほのぼのとしてて良かったね」とも言い切れない、何とも言えない静かなあきらめが心に残る。
この手の話だと「少女が少し成長して、元父と心通わせて、問題は解決はしないけど、ちょっとほろりとさせて、よかったよかった」みたいな終わり方が定番だけど、ちょっとだけそうじゃない冷たさというかさびしさというかそういうものが心に残るのだ。
角田光代独特の最後に口に残る隠し味?みたいなものか。

 ゴールデンスランバー 
              井坂幸太郎
7.9カラット

2008年本屋大賞受賞作。
この人のはハズレがないなぁ。特に今回のは秀逸。読み始めたらもう、どうにも止らない状態。平凡な青年が突然首相殺害の容疑者に仕立て上げられるという物語。主人公の逃亡劇と学生時代の思い出とが交錯するのだけど、この学生時代のシーンがまた良い。シーンも良いし、挿入の仕方も上手い。あちこちに張り巡らされた伏線もちゃんと効いていて、「おお!こんなところにこの人が来たか!」みたいなのが面白い。それから、物語は仙台を舞台にしているのだけど、ストーリーの中で仙台市は町中に「セキュリティ・ポッド」なる監視システムが導入されていて、市民は常に監視されている。数年前の無差別殺人鬼をきっかけに導入が決まったらしいのだけど、「市民の安全のため」というお題目の元にいつの間にか自由が奪われているのがじんわり恐ろしい。

これは作者がイイタイもう一つのテーマだと思うんだけど、すごく重く、恐ろしい。私たちの後ろにもすぐ迫っているような恐怖を感じる。

ちなみに「ゴールデンスランバー」っていうのはビートルズの最後のアルバム「アビイ・ロード」に入っている曲です。本の中に何度も出てくるので、お持ちの方は是非曲をかけながらどうぞ。


                                



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